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女性は、丁寧に頭を下げてはいるが、「言うことを聞け」と強烈なオーラを放っている。
ならば、従うしかない。ごほん、と魔王は咳払い一つして窓口の男性に向き直った。
「そもそもの話、なにゆえ己らよりも地位の低い人間の定めた善悪にそって天使と悪魔が生きていかねばならぬのか! 大いなる不満である!」
魔王は黒いローブを翻してポーズをつけつつ、言い放った。とくに命じたわけでもないが、家臣たちが「不満である!」と唱和する。主従の心はいつでも一つである。
しかし魔王は、このセリフを人間相手に言うのは若干躊躇われた。人間たちを「地位が低い」と思ったことはない。この世に生きる天使も悪魔も人間も平等に尊い命だと思っている。
だが、背後に蹲る家臣たちのために、心を鬼にして告げた。人間たちにに申し訳ないと思うあまり、涙さえ浮かんだ。
「しかるに……天使らしく生きたい悪魔がいる。人間になりたい悪魔もいる。なのに自由に生きることが許されぬのは、この世の仕組みの欠陥である。至急、この欠陥を糺して欲しい」
「糺して欲しい!」
だがしかし、目の前の人間は平静だった。笑顔を浮かべたままだ。よほど訓練を積んだ接客のプロと見える。
「承知いたしました。天使と悪魔の生きざまについてのご不満ということですね」
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