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「ああ、そうだな。君が知りたがるのは当然だ。……だが、悪いな。まだ教えてやることはできない」
冬吾は睨むように見上げて言う。
「また、ろくでもないことに俺を巻き込むつもりなのか?」
「……これはしょうがないことなんだ。私は、また君を騙さなければならない。――と言っても、君は納得してはくれないだろう。それもまた、当然か」
神楽は苦笑して肩をすくめた。
「まぁ、許されようとも、理解されようとも思わないが……君にひどい仕打ちをしている自覚はあるつもりだ」
神楽は冬吾へ、十センチくらいの距離にまで顔を寄せてくる。彼女は――戌井冬吾が知る『神楽』という女性には似つかわしくないような、毒気のない優しげな笑みを浮かべて――囁くように言った。
「――だから、これから私がすることの意味は、君の解釈に任せるとしよう」
十センチの距離が、ゼロになった。唇に柔らかなものが触れる。
「……っ!??」
冬吾はただただ驚いて、その身を硬直させた。頭が真っ白になって、身体の動かし方を忘れてしまったかのようだ。シャンプーの香りだろうか、甘さの中に爽やかさのある匂いが鼻腔をくすぐった。それが更に意識をぼやけさせる。
神楽は左手を冬吾のうなじへそっと回し、触れあっていただけの唇を少し強く押し当てるようにした。神楽の唇が動いて、冬吾の下唇を甘く挟み――愛撫するように舌でなぞり、吸いつく。
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