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とにかく、抵抗してこの場を逃れなければ……。しかし、神楽を突き飛ばそうにも、身体にそれだけの力は入りそうもない。
せめて、何か武器があれば――そうだ、ポケットに入れておいたナイフ! あれを使えば……!
冬吾は震える右手を必死に動かし、尻ポケットの位置を探る。しかし、確かにそこへ入れておいたはずのナイフの感触がない。――そんな、どうして!?
「これを探しているのか?」
神楽の左手に、冬吾の探し求めていた小型ナイフが握られていた。神楽は余裕の笑みを浮かべて言う。
「咄嗟に抵抗されては困るからな。先ほど失敬しておいた」
あの時に……! まったく気がつかなかった。ナイフが尻ポケットに入れてあることを即座に見抜いたことといい、神楽にはスリの技術まであるのだろうか?
――駄目だ。ナイフが奪われてしまったことも痛手ではあるが、そもそもスタンガンのショックで立つことすら出来ないのだから、逃げ出すなんて不可能だった。
「さて……このまま君をいじめるのもそれはそれで楽しめそうだが――今はやめておいて、本来の予定をこなすとしよう」
神楽は冬吾から離れると、スーツの上着左ポケットから何かを取り出す。小さな錠剤――のようだった。神楽は、冬吾の視線がその錠剤に注がれているのに気づいて、
「これか? 即効性の睡眠薬だ。服用から一分もすれば効果が出始める。君には少し眠っていてもらうぞ。――ああ、その状態では飲めないか? ふふっ……心配するな、私が飲ませてやろう」
神楽は冬吾の口を無理やりこじ開けると、睡眠薬を左手の人差し指と中指に挟み持って、口の中に挿し入れた。
「あ……ぐっ……うぅぅ……!」
顎にもまだ力が入らない。指を噛んで抵抗することもできなかった。薬剤が舌の上に置かれ、神楽の細指が、それをゆっくりと滑らせるように奥へ動く。神楽は嗜虐的な笑みを浮かべて言う。
「抵抗すると苦しいだけだぞ?」
まずい……これは、本当に、まずい……。何をされるかはわからないが、これを飲んでしまったら終わりだというのはわかる。
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