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十二月、二十三日――空は曇天。胸中にある緊張や不安をそのまま投射したかのような空模様だった。
クリスマス間近にもなると、昼間でも寒さが身に堪える。ジャケットのサイドポケットに両手を突っ込んだまま、戌井冬吾(いぬいとうご)は周囲をぐるりと見渡した。
「――えっと、礼拝堂……礼拝堂は……。あ、あれかな……?」
緑の匂いが濃く香る、よく手入れされた庭――その向こうに、天空へ向かって刺すような鋭い三角形の屋根が見える。他にそれらしい建物も見当たらない。周囲に人影はなく、訊いて確かめることはできないが……あれこそが、この修道院が抱える礼拝堂なのだろう。
聖アルゴ修道院――冬吾は、ある約束のためにこの場所を訪れていた。携帯の地図アプリを頼りになんとか目的地である修道院の敷地に辿り着いた冬吾は、その中の礼拝堂に向かってまた歩き始める。
冬吾は現在十九歳の大学生であるが、今から二ヶ月ほど前、奇妙な巡り合わせからある組織の一員となった。組織の名は『ナイツ』、日本全国にわたって支部を持つ巨大犯罪組織である。冬吾が所属するのは、その支部の一つである夕桜(ゆざくら)支社だ。
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