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他より体格に優れ髭を生やしているその男は、織江に向かって突くような右の上段足刀蹴りを繰り出す。不意を突いたつもりなのだろう――が、しかし。織江の目はその機動を容易く見切る。瞬時に身を屈めて蹴りを躱すと、足払いをかけて相手の軸足をすくい、転倒させた。
「――おっと!」
織江は咄嗟に地面を転がって、頭部めがけてスイングされた金属バットを避ける。先に攻撃してきたバット男だ。織江は相手と距離をとってから跳ね起きる。
「うらっ!」
男は続いて、右手で大きくバットを振り下ろしてくる。その時、織江は既に左足での回し蹴りのモーションに入っていた。バットが振り下ろされるのと、左回し蹴りが繰り出されたのはほぼ同時――風を切り裂くような勢いで放たれた踵が、アルミのバットを蹴り飛ばす。バットは男の手を離れて数メートル先に転がった。
「なっ……!?」
男は信じられないというような目で織江を見る。織江は「ふふん」、と得意げに笑って見せた。
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