プロローグ――誘引

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 冬吾がナイツに入るきっかけとなった殺人事件――それを裏で画策していたのが、『伏王会(ふくおうかい)』の神楽(かぐら)という女だった。  伏王会はナイツと同じく犯罪行為を専門とする組織、いわば同業他社である。組織としての規模も、ナイツと双璧を成すほどだ。その伏王会で差配筆頭の役職にあり、老い衰えた会長に代わって実質的に組織をまとめ上げている若き天才……それが神楽だった。  二ヶ月前の事件で姿を現した神楽は、冬吾を脅迫し、ナイツに入るように仕向けた。今をもってなお、神楽の真意は不明である。一般人である冬吾を犯罪組織に加入させ、弄び楽しんでいるだけなのか、それとも……なにか別の意図があるのか?  冬吾が今日、この聖アルゴ修道院を訪れたのは、神楽との約束のためだ。昨晩、神楽から携帯に電話がかかってきて、今日の午後三時に修道院の礼拝堂へ来るように指示されたのだ。誰にも知らせること無く、一人で来るようにと。神楽はそこで、『戌井千裕の死の真相を教える』と言っていた。  事件から四年が経った今でも、父である千裕を殺した犯人の手がかりは見つかっていない。父がなぜ、そして誰に殺されたのかという謎の答えは、冬吾が長年追い求め続けていたものだった。  しかし、なぜ神楽が自分にそんなことを教えるのか? 神楽はその疑問に対して、『それが私にとって得になるからだ』と答えた。今までの経緯からして、神楽の言葉をそのまま信用するのは危険すぎる。
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