プロローグ――誘引

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 それを理解した上で、冬吾は神楽の指示に従った。  断れば、ナイツに入る選択を迫られたあの時と同様に、妹の灯里(あかり)が脅しの材料にされるのは明らかだったからだ。冬吾にとって、灯里はたった一人の家族である。妹の身に危害が加えられるような事態は、絶対に避けねばならないことだった。  それに、もしも神楽の言葉が真実だった場合は、四年前、千裕の身に何があったのかを知るまたとない機会だ。神楽は以前にも、千裕の死について何かを知っているような反応を見せたことがあった。神楽の意図は不明だとしても、彼女が事件について何らかの情報を掴んでいる可能性は高い。  あの礼拝堂の中に、神楽はいるのだろうか? 緊張感を高めながら、歩みを進める。  広葉樹の並木道を歩いていくと、左と正面に分かれた分岐点に差し掛かった。左手側に進むと、すぐに礼拝堂の入り口に行き当たる。正面方向には、また別の大きな建物があった。レンガ造り、教会風の二階建てで、礼拝堂からは三十メートルほど離れている。あっちはおそらく、修道院の本館にあたる建物なのだろう。  そちらの建物の入り口には、黒服を着た大柄の男が左右に一人ずつ、門番のように立っているのが見える。警備員……だろうか? ただの修道院にしては妙に警備が物々しいような気もするが、中にはそういう場所もあるのかもしれない。  まぁ、あっちに用事は無いのだから気にしていても仕方ない。今関心があるのは、こっちの礼拝堂だ。
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