プロローグ――誘引

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「えーっと、時間のほうは……っと」  彼(暫定)は、左手首の腕時計を見て頷いた。両手には黒い手袋をしている。 「オッケー、待ち合わせの時間ぴったり」 「待ち合わせって……君はいったい……?」 「あ、やっぱ気になる感じ? そうだなー……。あんたをぶっ殺しにきた殺し屋……って言ったら信じる?」 「なっ……はぁ!?」  彼(暫定)は冬吾の驚くリアクションを見て朗らかに笑うと、両手をひらひらと振って言う。 「なーんてウソウソ。ウソに決まってるじゃん。俺がそんなひどいことする人に見えるのかなー? 傷ついちゃうなー?」 「あ……えっと、ごめん」 「ううん、謝らなくていいよー? だって俺がひどい人間だっていうのは、べつにウソじゃないからね」 「はい……?」  なんだ、この妙な会話は。からかわれているのか? 「へへ、俺はナツメって言うんだ。神楽のお付きの者……って言ったら、わかる?」  神楽の部下か! また随分と若い……。そして自分のことを『俺』と呼ぶということは、やっぱり男でいいのだろうか……。 「ちゃんと来てくれてよかったよ。寒い中待ってた甲斐があったよねー」  ナツメは「にしし」と悪戯っぽく笑うと、手を扉のほうへ向けて冬吾へ促す。 「さぁさぁ、中へ入りなよ。お嬢はもう待ってるよー?」  どうやらナツメは、冬吾が来るのを外で見張っておく役割だったようだ。他にそれらしい人影がないところを見ると、神楽が連れてきているのはナツメ一人なのか。中に護衛がいる可能性もあるが……。
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