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扉に手をかけようとすると、ナツメが思い出したように言った。
「あ……そうそう」そこで声のトーンが一段下がる。「言っとくけど、お嬢に妙な真似したら殺すからね」
上着の裾をめくり、腰元のホルスターに差したオートマチック拳銃をちらつかせる。
口調は軽いが、ただの脅し文句ではないと肌の感覚で理解できた。外見こそ幼いが、神楽の付き添いで来ている以上はやはり只者ではないのだろう。
神楽に色々と言いたいことがあるのは事実だが……言われるまでもなく、荒っぽい騒ぎを起こすつもりはなかった。倫理道徳的にどうという以前に、伏王会の重鎮を相手にそんな真似をすれば、こちらがどんな目に遭わされるかわかったものではない。
一応、いつもお守り代わりにしている木の鞘に入ったナイフ――父の形見だ――は今日もズボンの尻ポケットに入れてあるが、こんな小さなナイフでは護身用に使えるかどうかも微妙なところだ。
改めて気を引き締めてから、観音開きの扉を引いて開ける。礼拝堂の中は、学校の普通教室より少し大きい程度の広さになっていた。中に一歩足を踏み入れる。背後で「ギィ……」と音を立てて扉が閉まった。ナツメは中に入ってくるつもりはないらしい。話は二人きりで、ということか。
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