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礼拝堂の中は少し薄暗かった。左右にそれぞれ三カ所ずつ窓はついているらしいのだが、いずれも緋色のカーテンがかかっていて外からの光が遮られている。
天井近い高さで左右に梁が手前、中、奥の三カ所に渡してあり、そこから一個ずつ暖色系の電灯が吊されているが、光量はやや心許ない。
堂内には長椅子が二列に並べられており、奥の一段高くなったところには講壇が置かれていた。講壇というのは、神父や牧師が説教を行う際につく台のことだ。
その更に奥には、小さな祭壇。そしてその祭壇に添えられるように、左右に大きな天使像が一体ずつ立っていた。二体の像ともデザインは同じで、円柱形の台座の上に女性の天使が立っており、二メートルくらいの高さがある。
『彼女』は、右側に並べられた長椅子の、真ん中あたりに座っていた。礼拝堂内に他の人影はない。彼女は顔だけを軽く後ろの冬吾のほうへ振り向かせて、言う。
「――待っていたぞ、戌井冬吾」
「神楽……」
「ふっ、そう身構えるな。取って喰おうなどとは思っていないさ。――鍵を閉めておいてくれるか。誰にも邪魔されたくないのでな」
「…………」
逆らう理由も無い。冬吾は言われたとおり扉の内鍵をかけた。
神楽は左手を差し出すようにして、自らが座る長椅子の隣りのスペースを示す。
「まぁ座るがいい。話はそれからだ」
冬吾は返事はせず、黙って神楽の長椅子まで移動する。
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