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神楽は黒のパンツスーツを着ており、長椅子の中央ですらりと長い脚を組んで座っていた。椅子の背もたれには黒のロングコートがかけてある。足下の床には、黒く大きなボストンバッグが置かれていた。
神楽――見た目の年齢は、二十半ばほどだろうか。長い黒髪はうなじのあたりで一束にまとめており、その凜々しい姿は、美貌の女剣士を思わせる……あるいは、研ぎ澄まされた刀剣そのものか――どちらにせよ、美しい女性であることは間違いない。もちろん、その外見に惑わされるわけにはいかないが。
冬吾は神楽が促すのに従って、長椅子の端に座る。神楽は問いかけから会話の口火を切った。
「さて……。なぜここに君を呼んだのか、わかるか?」
「話をするため……だろ?」
「そうじゃない。この場所を選んだ理由だよ」
「……さぁ」
日時も含めて、修道院の礼拝堂を待ち合わせ場所に選んだのは神楽だ。冬吾にとっては初めて訪れる地であり、どういう場所なのか詳しくは知らない。
「今日これから、伏王会とナイツの会合が行われる。この修道院で」
「会合……って」
「伏王会とナイツが互いに不可侵の協定を結んでいるのは知っているな? 一年に一度、その協定について細かい取り決めを定める会合を設けている。両組織の長を含む、幹部を集めて行われる特別な会合だ。会場となるのは、修道院本館にある会議室。この礼拝堂の隣の建物だ、君もここに来る途中で見ただろう」
分かれ道のもう一方の先にあった、あの建物だ。
「その会合に出席するため、私はここに来ている。君をここへ呼んだのは、その都合だ」
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