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どんぐり
スキー板をはいた春香が雪の積もった白樺の森のなかをクロスカントリーの要領で進んで行く。
「まー君、早く来て」
「運動不足だな。雪のなかはやっぱり辛いよ」
春香の後を同じくスキー板をはいた大学生の正樹が息を弾ませついてくる。
春香の家は帯広のはずれにあった。両親はペンションの経営が忙しく、一人っ子の春香には遊び相手がいなかった。まだ幼い春香は正月の間だけ東京から遊びに来てくる親戚の正樹に気に入られたくてしかたがなかった。
「見てエゾリス。あのリスは北海道にしかいないのよ。奥にいる頭の赤い鳥はクマゲラ、キツツキの仲間なんだって」
「本当だ。かわいいね」
正樹は新雪のうえを飛び跳ねる小動物に目を細めた。
「もっと奥に行こ」
春香は雪にストックを突き刺し歩みを進める。この季節はほとんど白一色の世界だが、夏は木々が生い茂り、有名映画のワンシーンに似た緑のトンネルを作り出してくれる。春香はまだ本物を見たことはないがこの森のどこかに森の妖精が住んでいると信じていた。
「でも今日はこの辺にしない? 雪も降ってきたし」
「まだトトロ、見つかってないよ」
「来年も来るからさ」
「えっ、まだ三日しか遊んでないのに?」
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