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「卒業用のレポートがまだ東京に残っているんだ。ごめんね」
正樹はスキーで坂道を滑り降りると泣き出しそうな春香の帽子を取りあげ、雪をはらってあげた。
春香は家に帰ってきた後も不満気だった。 最後の日なのに父親に酒を勧められた正樹はほろ酔いになり全然相手をしてくれない。
夕食を食べ終えた春香は早々に二階の部屋にこもった。春香は床の上でトトロの縫いぐるみを抱きしめ唇を尖らせる。
「そうだ」
春香は勉強机の引き出しを開けると奥の方から小さな箱を取り出した。笑顔でふたを開けるとなかから沢山のどんぐりが出てきた。秋のうちに集めておいた春香の宝物だ。
春香はそっと二階の窓を開けた。雪しか見えない広い庭に正樹と父親がお酒を飲んでいる居間の明かりが漏れていた。
春香はほくそ笑むと窓の外にむかって全てのどんぐりを投げ捨てた。そのままベッドのなかに滑り込み明日のことを考えた。
庭のどんぐりはトトロの落し物だ。やっぱり家の周りにはトトロがいる。その話で正樹を森に誘えばきっと飛行機に乗り遅れる。そうすればもう一日、正樹と遊べるはずだ。
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