先生

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「すいませーん、先生ー?」 コンコン、と小屋のドアを手の甲でノックする。 辺りに木と緑以外何も無い中で、ただ一軒だけ、ポツリと寂しく建っているこの先生の家。……の庭の周辺が僕のいつもの稽古場なのだ。 「今行くからちょっと待っててー!」 先生の叫ぶ声がドアの向こう側から聴こえた。 先生の家の壁はかなり薄い、というか正直言って家自体がボロいから、家の外に居たとしても家の中の音や声は良く聴こえる。 中でコン、と短く響く金属音がしたので、多分先生はまたいつもの剣の手入れをしているんだろうな、と思った。 ……先生は並ぶもののいない程の凄腕の剣の達人であると同時に、毎日手持ちの剣の手入れを絶対に欠かさない……むしろ一人の時は暇さえあれば常に剣ばかり触っているような重度の剣オタクである。 先生がこうして剣術稽古をやっているのも、剣の素晴らしさを皆に広めたいからやっている、との事らしいのだが。 「ごめんごめんこんなに早く来てくれると思ってなかったからつい剣のお手入れをちょっとね」 ドタドタと足音がした後に、ドアから先生がやや興奮気味に出てきた。息が少し上がっている。恐らくさっきまで剣の束に頬擦りでもしていたか、右の頬が微かに紅い。 「いや、分かってました……。だって先生の家でやる事ってそれしかないですし」 「確かにそうだね……」 先生の灰色の瞳を照れくさそうに細ませて、苦笑いしながらカリカリと頭を掻いた。
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