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それも一瞬の事で、キッと顔を上げてさっきまでとはうって変わって鋭い目でまたこちらを見返す。
こうなるといつもの剣オタクの雰囲気は全く消え失せ、歴然たる達人としてのオーラが現れてくる。
「それじゃあ、今日の稽古を始めようか」
先生の言葉にはーい、と元気良く答えて納めた木剣をゆっくりと鞘から抜く。
この瞬間。
この瞬間こそが自分にとっての心にめらめらと燃え上がる戦いの狼煙であり、これから剣を振るうという緊張と高揚を限りなく高めてくれるルーティンなのだ。
そして抜いた木剣を両手で構え、先生の方に向き直る。
「では行きます!」
そう叫び、勢い良く先生に向かって斬りかかる。
しかしそれは難なく素手によって左へ右へ受け流される。
それによって一瞬崩れる身体のバランスをまた素早く立て直し、さらに勢い良く斬りかかる。
それらを躱され、受けられ、流される。
これらの動作を一心不乱に何十回、何百回と繰り返す。
その内に、一回位は剣を当てられそうになる。
しかし、それもギリギリの所で避けられてしまう。
ひたすらそんな事をしている内に、先生の止めの合図。
「はいストップ!」
それと同時に僕の集中も切れ、勢い良く地面に座り込む。
「……やっぱり一回も当てられない」
「いや、今回は私も危なかったよ。私ももうあまり遊んでいる余裕が無いくらいには剣筋が鋭くなってきている。君より年上の子でもここまでの子は中々居ないから、もっと自信を持っていいと私は思うよ」
自分と先生の圧倒的な実力の差に、がっくりとうなだれる僕にも先生は優しく声をかけてくれる。
内容的にはむしろ僕にとって追い討ちでもあるのだが。
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