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長の血族は欲深い。少しでも力を手に入れたくて、次から次へとここに降りてくる。
[ソレ]の力は恐ろしい。一口食べるにも覚悟がいる。
体内に取り込むことが出来れば長命となり、戦闘能力が桁外れに強くなる。しかし、取り込めなければ逆に魂は[ソレ]の本体に吸収されることになる。
慰み者にする者は、ただ捌け口にするためだけにやってきた。咎められることはない。皆、やっていることだ。
死ぬわけでもなく、嫌がるわけでもない。物足りないなら、「泣け」と言えば泣く。「乞え」「欲しがれ」「喜べ」「従え」「狂え」。
どんな命令にも従い、来た者が満足するまで何度でも繰り返された。
抉られたり、突かれたり、焼かれたり。何をしようと、されようと、[ソレ]は日をおけば元に回復する。
だから加減をする必要が無い。気鬱を晴らす格好の相手という訳だ。
疎まれ、忌み嫌われ、蔑まされる。生き物以下のモノだ、大事にされたことがない。
[ソレ]には分らなかった。何を求められているのか。そして、そのことを分かる必要があるのかも。
実は、里の司祭たちもこの存在が理解できていなかった。なぜ[ソレ]がいるのか。なぜこうなったのか。
伝承にもどの書物にも、ある時期からしか資料が無かった。数千年なのかそれ以上なのか。ただこの地下に繋がれ、同じことが繰り返されてきただけだ。
長の嫡子が15になると、その夜会の席に引きずり出される。そして、長が嫡子に尋ねる。
「贄にするか? 妻にするか? 夫にするか?」
どれを選ぶかで嫡子の性別が決まり、与えられる力も変わった。男なら鬼神となる力と長寿を。女なら魔力を。
配偶者として望めば、「婚姻の儀式」を受ける。儀式を受けても必要とされる時以外はまた地下に戻される。つまり、子が必要な時だけに地上に出るのだ。そして長の子を作り、用が済めば鎖に繋がれた。
贄にすると決めた嫡子は、19になると「食の儀式」を受ける。[ソレ]には心臓が無い。
心臓に当たる部分に芳醇な、口の中で蕩けるような塊がある。その塊を食べて強大な力を得ることが出来るのは、長の嫡子だけだ。性別のないまま、長命となり、強き魔王となる。
魔王が死ねば、その塊が〔ソレ〕に戻り、次代の嫡子となるべき子を産んだ。
こうして、長の一族の血は脈々と継がれ、途絶えることは無い。それらこそ人外とも言えるのに、追及する者はいない。
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