21人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
降りてくる者に、目を飛ばす。子どもだ。幼き者が来たことなど無い。
――嫡子か それとも慰みに来たのか
降りてくる者はみな同じだ。何かの欲求を抱えてくる。
――今度は、なにか
ぽとん ぽとん
暗い地下に水が滴る。[ソレ]には、食す欲求もない。空中に水分が含まれていれば、それでいい。
ただ、いつ頃からか(なに?)という言葉が湧くようになった。
(なぜ?)
(なんだろう)
(なにか)
そんな類の言葉だ。それでも、それ以上の言葉に繋げていく術を知らない。必要としないからだ。
不思議だった。降りてくる子どもに、黒い気持ちを感じない。明暗と色に近い認識は持っている。黒いものは好ましくないものだと。ここに来る者は皆多かれ少なかれ黒いのに、子どもからは不思議な色を感じた。
顔を上げた。
――光っている
初めて感じる色だった。
子どもは、ディ・レ・ウォルカ。13歳の、現在の長の嫡子だ。古い家臣がこの地下のことを話しているのを漏れ聞いた。
「……地下の鎖を外せるのは嫡子だけだ……ああ。今夜はどうなるのか楽しみだよ」
何が楽しみなのか分らなかった。けれど、地下の場所を知った。14歳の誕生日を迎えるまでは知らせてはならない決まりになっている。
彼は最も信頼しているヒーリングの師、ソア・ルーンに聞いてみた。聞いたことが何を意味しているのか、地下に何があるのか。それを知りたいと。
「あなたが思う通りに行動すれば良いのですよ」
盲いた人生の師はそう答えた。
「その目で確かめなさい。あなたは自分の意志で生きるべきなのです」
ソアは隠し持っている豊かな魔術をひっそりとディ・レに授けていた。今までにつかえた嫡子に無い何かをこの子に感じたのだ。
何者にも穢させたくないと心から思う。ソアは予知能力者でもあった。
(ディ・レの思うがままに)
それこそが今の荒廃しつつあるこの世界に必要なことなのだ。そのために自分はいつか死すことになるだろう。これも心に秘めた確かな未来だった。
最初のコメントを投稿しよう!