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「あの、今日は余計なことしてごめんなさい」
しばらく沈黙が続いたけれど、彼の前に新しいグラスが届けられたタイミングで私は彼に向き直り、頭を下げた。
結果として、私のせいで姉が遼太郎より不倫相手を選ぶ場面をあからさまに演出してしまった。
「いや。お前は悪くない」
でも、意外なことに遼太郎は怒らなかった。
水割りのグラスをただ静かに揺らしている。
しばらく黙って甘いカクテルをちびちび飲んでいたら、遼太郎がカクテルの名前を教えてくれた。
「それはファジーネーブル。初心者向けの定番だ」
「あ、聞いたことある」
「初心者向けだけど、アルコールはアルコールだからな」
美味しくて癖になりそうな味だ。
カウンターのあちら側ではかなり酔ったらしい女性が突っ伏していて、隣の眼鏡の男性が揺すっている。
ああなっては大変だ。
酔わないよう用心して少し飲んでは、我慢できずにまた一口飲む。
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