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「倉上ビルに居ると季節がわからなくなるけど、ここだと嫌でもわかるわね」
夏真っ盛りの八月に入ると、プレハブ建て事務所はエアコンをフル稼働させても、うちわが欲しくなる時間帯がある。
地面の輻射熱のせいなのか、太陽が傾き始める夕方がそれだ。
「コーヒーと言えば自販機しかないし、ほんとたまらないわ」
事務所横の公園のベンチで先ほどからぼやいているのは市川さんだ。
この時間帯は事務所にいても暑いので、市川さんに誘われて私も一緒に休憩中だ。
「最近の缶コーヒーの進化はすごいって聞きますけど」
「でも、これはハズレ」
いかにも高級そうな小さな缶を恨みがましく睨んだ後、市川さんはきちんと飲み干した。
そういうところが市川さんらしい。
彼女は倉上本社ビルに用事を作って帰ろうと思えばできるのに、大文句を言いながらもこの事務所に詰めている。
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