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「さあ……。よく知らないんです」
市川さんは私の顔をじっと見つめていたけれど、私が何も語る気がないのを見て取ると立ち上がった。
「そういえば、私の忠告、聞かなかったみたいね」
「ブッ」
それがなんの話題なのかはすぐにわかった。
西岡課長に見抜かれたときと同じく炭酸でむせる、わかりやすい自分が情けない。
「やっぱりそうなのね。でも、あなたじゃなくて、今井くんでわかったのよ。あなたが西岡課長と外出すると、時計ばかり見て仕事が異常に早くなるの」
咳込みながら涙目で市川さんを見上げる。
彼女の声には前回のような棘はなく、どこかあきらめたような清々しさがあった。
遼太郎の時間をほぼ独占している今はもう疑ってはいなかったけれど、〝市川とは終わってる〟という彼の言葉に嘘はなかったのだろう。
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