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「自己紹介は適当でいいよ。気楽に」
膝の上で強く拳を握りしめる私の様子を自己紹介に臨む緊張だと解釈した西岡課長が、私の肘を軽く叩いた。
そうだ、自己紹介のことを考えなければ……。
その時、さきほど直視を避けてしまったあの男性が、視界の隅で立ち上がったのが見えた。
いくら見るまいとしても、私の全神経は彼に向けられていたのだろう。
会議室に低く落ち着いた声が響いた。
「倉上ホールディングスの今井遼太郎と申します。イノベーション本部の都市開発グループに所属しております」
ああ──やっぱり。
その瞬間、衝撃のあまり思わず目を閉じた。
でも、たとえ彼が名乗らなかったとしても、あの声だけで私は確信しただろう。
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