再会~初恋の残り香

19/35
前へ
/36ページ
次へ
「ところで、当然のことだがしばらく東京勤務になる。及川はもともと埼玉出身だし、希望調査で転勤可と書いていたから勝手に推薦したんだけど、良かったのかな?」 「はい、もちろんです。どの勤務地でも構いません」 こんな大きなチャンスを前に、文句をつける人間がいるだろうか? 「たしか、大学から関西に来てるんだろ? あまり実家に帰ってないって言ってたし、今回はいい機会じゃないか?」 「はい……そうですね」 それまで勢い込んでいた私の返事は、ここでわずかにトーンダウンした。 埼玉の実家を離れて京都の大学に進んだ私は、この秦野地所に入社した。 全国に支社と事業所を展開する大手企業だ。 私が関西支社に配属されたのは、新入社員の配属地域は出身大学によりおのずと決まる、という人事上の慣例のせいもあるけれど、私が関東に帰ることを希望しなかったせいでもある。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3323人が本棚に入れています
本棚に追加