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それがまさか、こんな状況になるなんて……。
倉上の社員の自己紹介を聞きながら、私は運命のいたずらを呪った。
でも、みっともないところだけは見せたくない。
今の私は、彼の前から逃げ出した昔とは違うと証明したかった。
自己紹介の順番が西岡課長まで回ってきた時には、私はいくらか落ち着きを取り戻していた。
着席しながら私に目で笑いかけた課長に頷いてから、背筋を伸ばして立ち上がる。
「秦野地所関西支社より参りました、及川莉穂と申します。都市開発事業本部の再開発事業第一部に所属しています」
遼太郎の方は見なかった。
緊張してしまうから?
それとも、昔と変わらず、私を見もしない彼を目の当たりにするのが怖かったのかもしれない。
実績とも呼べない、まだ少ない経験を飾らず矮小もせずありのままに述べ、腰を下ろした。
声の音量も悪くはなかったはずだし、そこそこの出来だったと思う。
遼太郎は私を見てどう感じただろう?
京都の大学に進学したことぐらいは覚えていてくれただろうか。
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