ホワイトさん

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 ホワイトさんは私の父が、私に物心がつく前からずっと聞かせてきた謎の精霊で、なぜかは知らないがサンタ同様に特定の日にプレゼントをくれた。  いま思えば、サンタよりもホワイトさんを信じる方がほっぽど馬鹿だったと思う。きっと、学校の先生もホワイトさんって誰だよって思っていたに違いない。  ただ、私がホワイトさんを信じていたのは、実際に自分の目で見ていたからなのである。  私が見たホワイトさんは全身白タイツ姿で、オバQのような口紅と濃すぎるくらいのアイシャドウが施されていた。顔だけみれば口避け女のようで、そのあまりに奇妙な姿はトラウマものだった。  そもそも三月十四日のホワイトデーはホワイトさんを感謝をする日であったということである。父が言うことには、バレンタインデーにチョコという色の黒いものが贈り物として選ばれていたことや、たまたまホワイトデーと呼ばれる日がその一ヵ月後にあったことから、ホワイトデーがまるでバレンタインデーの(つい)の記念日であるかのように思われ、チョコをもらった男が女にキャンディだのマシュマロでお返しをする日などという俗説が全国的に広まってしまったというのだ。  出どころはすべて父であるが、他にもホワイトさんに関するいろいろな噂を聞いたことがあった。  ホワイトさんは時速百五キロで走る。  ホワイトさんの好物は子どもが食べ残した人参で、人参を残すと三月十四日を待たずに食べにやってくる(その場合、もちろんプレゼントはもらえない)。  ホワイトさんの正体は誰も知らない世界(unknown world)の囚人で、刑期を終えるまではホワイトさんとして過ごさなくてはならない。  ホワイトさんはまったく言葉を口にしないが、ホワイトさんに向かって南無阿弥陀仏を唱えると「そんなことをしても帰らないよ」と呟く。  ホワイトさんは世界中に常に七人いる。  ホワイトさんの素顔を見たものはそのホワイトさんと入れ替わってしまう、など。  いい子などという、訳のわからない基準で誰彼構わずプレゼントを渡すような軟弱なサンタとは違う。ホワイトさんに会っても泣くことのないブレイブハートを持つ子どもだけが、ホワイトさんからプレゼントをもらうことができるのだ。
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