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父が言うには、遺影に写る人物こそが、長らく私に恐怖を与え続けたホワイトさんだというのだ。
彼は父とは小学校からの親友で、お互いに結婚をしてからも月に一、二回、亡くなるひと月前までは父と酒を酌み交わしていたらしい。
それほどの仲であるのに私は会ったことはおろか、見たことさえなかった。
私に認識されないようにするため、私が三歳になってからというもの、三月十四日以外には、どんな場合においても私の前に姿を現すことはしなかったらしい。
「子どもの頭の中に、サンタみたいなものが他にもあったら楽しいじゃない。けど、それが知り合いだと気づいたら、マコトのホワイトさんへの夢が壊れてしまう。ちょうどサンタが父親だと知ってがっかりするように」
生前、父の親友はそう言っていたらしい。
ホワイトさんへの夢って――そんなものは、まったくないのに。私の中学入学以降、プレゼントを渡さなくなってからも引き続きそれを徹底していたのだから大したものである。
私にとってみたら奇怪な思い出でしかないが、振り返ってみると、当時の恐怖は決して後味の悪いものではなかったように思う。
そのとき、小さな子どもの泣き声が斎場に響いた。さっきのお兄ちゃんが妹を泣かしてしまったのかも知れない。
私は、ふと今日が三月の最初の日曜日だということを思い出した。
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