第一章

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『彼女の席の一番近くの窓だけ』 僕は、そのつもりで頼んだのだが、彼女は大教室の階段を下りきると、一番下の窓から、順に閉めて行った。 そして、大教室の真ん中に座る僕の席をも通り過ぎ、一番上の窓まで、順番に閉めていく。 まさか、大講義室の全ての窓を閉めてくれるなんて、思ってもみなかった。 せめて、自分のそばだけでも。 そう思っていた僕は、彼女の予想外の行動に何て声をかけていいのかわからなかった。 唖然としながら、窓を閉め続ける彼女の背中を見つめていた。 彼女は他の生徒、授業を続ける教授から、どのように思われているのかなんて気にしていないようだった。 そんな中、辺りからこそこそとした囁き声が聞こえてくる。 生徒たちの話の内容までは聞こえてはこないが、皆、彼女のほうに視線を送りながら何やら話している。 それは、美しい彼女にかかる羨望や憧れの声ではないと思った。 きっと、生温かい教室の空気を閉じ込める様に窓を閉めていく彼女に対して不満の声が出たに違いない。
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