第一章

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「まだ桜咲いてないけど?」 複雑そうに眉根を寄せて彼女が言った。 「まぁ、なんとなく。閉め忘れないようにね」 そう言ってごまかしたが、芹沢は話を続ける。 「市井君っていつも窓、閉めてる気がする」 「んなわけないだろ」 笑い合いながら僕たちは廊下を歩きだした。 彼女の手にもレポートらしきものがある。 この通りに用事があるという事は、僕と同じ心理学の塚本教授の所へ行くのだろう。 「アレルギーって、一生治らないの?」 隣を歩く彼女は、目を細めて僕を見た。 「人それぞれみたいだよ」 僕は、そう言いながら廊下を見やった。 長く続く廊下の窓は、どれも開け放たれている。 全て閉めて歩くのは気が遠くなる作業だ。 いや、まだ春じゃないから閉めなくてもいいんだけど。
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