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「……出来た!」
思い付きにしては、迷いなくアルはそれを作った。器用なのもあるのだろうが。
「タイトルは?」
訊ねるジェームスに、アルが声を潜めて恥ずかしげに囁く。
「……『恋人たち』」
思わずジェームスは精悍な目を細めて微笑んだ。アルが出来上がったスノウドームをひっくり返すと、クリスマスツリーの下の小さな二人に、真白い雪が光を乱反射しながらキラキラと降り注ぐ。
「あの時みたいだろう?」
「ん?」
「初めて会った冬」
そう言えば、とジェームスは思い出す。中途採用で入ってきたアルの研修担当になって、親睦を深めようと一緒に帰った初めての夕暮れは、雪がしんしんと降っていた。
あれから四年。程なくして公私ともにパートナーになった二人だが、アルは変わらず初々しいまま、その想いをスノウドームに閉じ込めたのだった。
「上出来だ」
ポンポンとアルの頭に掌を乗せ、ジェームスはそれをプレゼント用にラッピングして貰い、金を払って店を出る。冬の陽は落ちるのが早く、辺りはもう薄暗くなっていた。
「何処かで休むか」
「うん。あ……ベンチあるよ、ジェームス」
アルの指差した駅前広場の片隅には、ドームのついたベンチがひとつあった。おあつらえ向きだ。二人が腰をおろすと。
「わぁ……」
アルが感嘆の吐息を漏らした。明度感知式なのだろうが、まるで二人が座るのを待っていたかのように、イルミネーションが灯る。アーケードの屋根から鈴なりに垂れ下がった蒼い光の珠は、まるで輝く藤棚のように美しかった。
「綺麗だな」
「うん。凄く」
「……綺麗だな」
ジェームスが繰り返して、灯りがともる前までは暗くて分からなかった、ベンチやその上にかかるフードにも張り巡らされた電飾を見上げた。横には、緑の小さなクリスマスツリーも形作られている。何だかアルは、ひとつしかないその輝くベンチを二人占めして、世界に祝福されているようなくすぐったい気分になって、ジェームスに控え目に寄り添った。
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