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しかしやがて、ある事に気付く。何故か道行く人たちが、奇異の目を向けたり、クスクスと笑い合っては過ぎていくのだ。
「な、何だろう……俺たち、何か変かな」
慌ててジェームスと距離をとって座り直しながら、アルがドギマギと顔を強張らせた。すると一人のOLらしき女性が、困ったように苦笑しながら、声をかけてきた。
「あの……そこ、『Lover's』ってタイトルのオブジェで、恋人同士が座るんです。後ろに、ハートの電飾があるでしょう?」
振り返ると、ピンク光で彩られたハートマークが確かにあって、アルは真っ赤になって恥じ入ってしまった。ところがジェームスは、女性にウインクをして礼を言う。
「教えてくれてサンキューな、お嬢さん。でも俺たち恋人だから、合ってるんだ」
「ジェ、ジェームス……!」
「え……!? それは……あの……お節介ですみませんでした……!!」
今度は女性の方が顔を赤くして、逃げるように走り去っていってしまった。アルが責める。
「ジェームス! 何言ってるんだよ」
「隠した方が良かったか? 普段散々隠してるんだ。クリスマスくらい、見せ付けてやろうぜ」
言って、ジェームスはアルの冷たい右手を取ってポケットに突っ込んだ。秘められたその中で、指を絡ませる。アルは右手が心臓に合わせて、ドキドキするのを感じていた。
「でも……恥ずかしいよ」
「俺はお前が好きだから、恥ずかしい事なんてひとつもないぞ」
『恋人たちの』ベンチに座り、言葉通りジェームスはアルの髪を撫でたり、腰に腕を回したりしながら、蒼白く輝く頭上のイルミネーションを楽しんだ。アルが周囲の目を気にしなくなるまで、「愛してる」と甘く繰り返す。
「ジェームス……プレゼント買って、もう帰ろう」
堪らなくなって、トロンと潤んだ瞳でアルが懇願した。ジェームスが口角を上げる。
「買う必要はねぇ。言っただろ。俺が欲しいプレゼントは、アルだからな」
「ジェームス……」
律儀に頬を染めるアルと手を繋いだまま、ジェームスは立ち上がった。そのまま引いて、駅を目指す。フラフラと着いてくるアルを振り返り、ジェームスは苦味走ったセクシーな笑みを見せていた。
「ちゃんと、リボンかけてくれよな? アル」
End.
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