君が笑えば

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  目まぐるしい時間帯は何度かあったが、何とかクリスマスを乗りきった。 試みも初年度だし、爆発的な集客ははなから期待していなかったけれど、そこそこ形にはなった。 特にケーキ屋との提携は店側にも客側にも受けはよかった。 うちには儲けはないに等しいが、他のものをついでに買ってもらえれば御の字だ。 姉夫婦は昨日の夜帰っていった。 姉は結婚前のようにてきぱきと業務をこなし、フロアの采配を一手に引き受けた。近所のおばさま方に散々絡まれ、義兄と共に弄られていたが、久々のやり取りが楽しかったようだ。 日頃デスクワークの義兄は慣れない力仕事に筋肉痛だと笑っていた。 遠距離運転して、睡眠も普段より少なかったはずだから、今日の勤務はきつかったことだろう。 二人には感謝してもし足りない。 アキは学校が休みだとかで今日も手伝ってくれた。 世の中がまばゆい光に彩られて浮き立っている期間中、自宅に帰る以外は店から出ることもなく、チキンを運び包装して、接客もする。 長く人と接することを避けてきた彼女に、見知った顔がいるとはいえ接客までさせて大丈夫なのかと思いもしたが、全く心配なかった。 固く雪に閉ざされた大地が雪解けを迎えて少しずつ顔を出すみたいに、彼女の閉ざされた意思や感情が見えたとき、ほっとするような安堵感がいまだにある。 俺や家族に対してはそれなりに自分の感情を見せてきているが、人と関わらないよう意識的に過ごしてきた期間が長すぎるから、ぐいぐいやって来る人物に出会うと自分では対処しきれず固まってしまうところが残っている。 「久しぶりに三好のおばちゃんと話した。二軒隣なのに」 「三好さんね、驚いてたわよ。でも嬉しそうだったよ。 アキちゃん、慣れないことで疲れたでしょ」 お袋がチキンを切り分けながら言う。 アキははにかんだような笑みを浮かべてそれに答えた。 「忙しかったし、邪魔になっただけかもしれないけど、楽しかった」 俺の家の古びたダイニングテーブルにつき、親父やお袋交えて遅い夕食を摂りながら話すアキの横顔を見る。 "嬉しい"、"楽しい"、そんな感情を罪悪感で押し潰していた時期とは違う、穏やかな顔がそこにある。 こんな風景に居合わせられるのが、今の俺の幸せだ。
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