君が笑えば

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  「明日、どっか行く?」 アキを送る道すがら、会う約束を取り付けようとする俺に、アキはにべもなく言った。 「佳典疲れてるでしょ。 明日は休みなんだから、ゆっくりしなよ」 解ってない。 全然男心を解ってない。 俺は乗りきったの。 あちこち手を借りたけど、アキの手も借りたけど、やっと一段落したの。 明日ようやく時間が作れる、それだけを楽しみに頑張ったの。 ご褒美欲しいじゃん。 色んなことして、アキをチャージしたいじゃん。 「俺は一人でゆっくりするより、アキとゆっくりしたい」 民家のイルミネーションがチカチカと光る。 クリスマスの夜、平日なのもあって交通量が少ない。 「クリスマスプレゼントだってあげたいし、デートもしたい」 「いいよ、そんなの」 「俺がしたい。何がほしい?」 アキは口を閉ざした。 「アキ?」 「…………佳典がいてくれたらそれでいい」 そんな当たり前のこと、と言おうとして今度は俺が何も言えなくなった。 アキにとっては当たり前じゃない。 当たり前だと思っていた、それを目の前で失った絶望感は、薄れはしても一生消えない。 「いてくれたらいい」 それは甘い殺し文句でも、その場を適当に流す言葉でもなく、アキのぶれることのない切望なのだ。 「朝からとか言わないからさ、俺も寝たいし。 昼から出ようよ。それならいいだろ?」 送ることさえ拒んで「早く休め」と耳にタコができるほど言い続けていたアキの気持ちを聞き入れてやらなかったのは俺だから。 一緒にいる時間が減ろうとも、今度はアキの気持ちを優先しよう。 「"何時"じゃなくて、"起きたら"でいいからね」 ゆっくり言い聞かせるように俺に言う。 こういうとこ、頑固だ。 普通は多少無理してでも自分を優先しろって言うんじゃないのかね。 よくあるじゃん、「仕事と私、どっちが大事なの?」みたいな。 「寝るのと私、どっちが大事なの?」って言っても許される場面だと思うんだが。 でも、そうはしない、それがアキだ。
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