君が笑えば

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  アキの家の前につく。 束の間のドライブデート、ちっとも色気のなかったクリスマスも終わりだ。 「お疲れさま。ありがとな、本当に助かった」 停めた車のエンジンの音と、エアコンの音だけが暗い車内に響く。 「ううん、本当に楽しかった。 バイト料、頂いちゃって良いのかな」 「当然だろ、ブラックバイトの仲間入りは親父のために勘弁してやって」 「そっか」 納得したように呟いて、アキはシートベルトに手をかけた。 「じゃあ、気を付けて帰ってね。 帰ったらメールしてね?」 "帰ったよメール"要請は付き合いはじめてから一貫して続いている。 これからも免除されることのない、俺の義務だ。 それくらい心配されて、大事に思ってもらえているのだ。 シュルシュルとベルトが収まったのを確認した。 「解ってるよ」 呟いてアキの後頭部に手を回し、引き寄せて口付ける。 俺ね、隙あらば触れていたいの。 このままキスもしないで帰るとか、そんなわけないじゃん。 姉貴も「二人のときにして」って言ってたことだしさ。 一日中どたばたしてたから、汗くさいかもしれないな。 抱きしめたいけどそれは我慢。 されるがままのアキは、長いキスの間に"しょうがないな"と言いたげに俺の肩に手を添えた。 唇が離れる。 アキを見つめて、もう一度と顔を寄せた俺の前にアキは手を差し入れてきた。 「もう少しって思い始めたら、止まらなくなっちゃうから今日はおしまい」 「えー」 不満を漏らすと、彼女は照れ臭そうに言う。 「また明日、してね?」 くっそ、反則技だ、我慢するしかねぇじゃんか。 ドアが開く。 冷たい空気が我先にと飛び込んでくる。 「おやすみ」 車を降り、振り返って手を振るアキの顔が優しくて、見慣れているはずなのにドキリとした。 あと何ヵ月か先にやって来るアキにとって辛い春を、今と同じような優しい笑顔で迎えられるように支えてやりたい。 アキを笑顔にできる自分でありたい。 「うん、おやすみ。また明日」 約束ができる"当たり前"を大事にしながら。     ~「春一番が運ぶもの」より~
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