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中村はゴルフバックから全てのクラブを抜き取るとバッグの奥を覗いた。それからバックの全てのチャックを開けてみるが、予備のゴルフボール以外、出てこなかった。中村はトランクを閉めると運転席に戻ってきた。
そのままボンネットのオープンレバーを指で引くと、車の前に回り込み、エンジンルームを覗いた。そこにはまだ熱を持ったままの機械が詰まっているだけだった。
中村はまだ諦めない。ポケットのなかから、鏡のついた指し棒を取り出すと、車の裏側を覗き込んだ。職務に忠実な男だとは思うけど、猫一匹を運ぶのに車を改造したりはしないわ。
「よろしいかしら?」
「最後に少し……」
私の問いに中村は女の守衛を呼んだ。女はジェスチャーでスカートを捲るように要求して来た。中村は背を向けた。私は素直にスカートをまくって見せた。女の守衛は言った。
「問題ございません」
私は中村に笑顔を見せるとベンツに乗り込んだ。そのまま屋敷の駐車場まで来ると車を止めトランクルームを開けた。
「マウ、さすが私が見込んだだけはあるわ。あなたはどんな猫よりも賢い」
私はマウに頬ずりすると仔猫を抱きしめ家のなかに入った。
「さあ自由にお遊び」
マウはヨチヨチとカーペットを歩きリビングで紅茶を楽しむお父様の足元に飛びついた。
「猫、どうやって中村の目をかいくぐったんだ。あいつは私の見込んだ男なんだぞ」
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