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数年後、サキは癌に倒れた。おそらくは新しい街に馴染もうとする努力が心労になっていたのだろう。何度か手術をしたが、サキの病は快方に向かうことはなっかた。
ある時、医者が俺のことを診察室に呼んだ。医者はサキの自宅療養を勧めてきた。それはつまり、頭が回らなかった。サキにどう言葉を掛ければいいのかわからない。
俺はサキのいる病室に入った。仕切りのカーテンを引いて丸椅子に座る。ベッドに横になったサキの横顔は白くやつれいた。
「どうしたの」
サキに聞かれるが言葉が喉にかかって出てこない。
「どうしたのよ」
もう一度聞かれ、俺はへたな笑顔を見せると切り出した。
「もし亡くなる日が決まったらどうする?」
サキは笑って答えた。
「助からないんだ」
そんなつもりはなかった。なんと言葉を返せばいいかわからない。サキは言った。
「だったら、早く病院を出て、二人で日本中を旅して周りましょう。昔、そんな話をやった記憶があるでしょ」
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