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「好きになろうとはしたのよ?」
「そういう問題なの? だって、馨、自分から告白したんじゃなかった?」
「うん。好きになれると思ったから……」
今日何度目かの大きなため息が麻衣子からもれた。
「一般的には告白というものは好きな人にするもので、好きになっていない人にするもんじゃないわよ?」
相変わらず麻衣子の言うことは直球で正しい。
「そうだよね。たぶん」
「たぶんって。そりゃ振られるでしょ」
「やっぱり?」
「それで?」
「それでって?」
「会えたの? 保科先生には」
「うん。会えた」
「満足した?」
麻衣子の問いに、私は首をかしげる。
「満足って?」
「だって会いたくて行って、会えたんでしょ?」
「そうだけど……」
私のあやふやな答えに麻衣子はちょっと黙った。そして。
「念のため聞くけど、保科先生は既婚者だって知ってたよね」
「うん」
「それでも好きなだけでいいって前は言ってたよね?」
「言ってたよ。だって中学の私に何ができるの?」
麻衣子はまた黙った。
「……。今は大学生ね、馨」
「そうだね」
「もう、行くのよしなよ。変な関係にでもなったら大変」
麻衣子の苛立たしげな声に、
「大丈夫だよ。保科先生は私のこと元生徒としてしか見てないし」
とは答えてみたものの、
「答えになってないけど」
と突っ込まれた。
「……ごめん。麻衣子。私、また会いに行くと思う。だって会いたいの」
そう。会いたい。先生に会いたい。
「っ。知らないからね。馨が傷つくことになっても」
麻衣子はあくまでも私の心配をしてくれていた。
「大丈夫だよ。ありがとう、麻衣子。大好き」
「ほんと、あんたって馬鹿よ。だから心配。私、忠告したからね」
「うん」
「じゃあ、また連絡して」
「うん」
麻衣子は塾が一緒で、高校も一緒で、でも大学は県外に出たので直接会って話すのが難しくなった。それでもやっぱり肝心なことは麻衣子に相談してしまう。麻衣子の言うことはいつも正しい。でも、人間、正しいことだけできるわけではない。
このときの私は、まだ既婚者を好きになるということが本当にはわかっていなかったのかもしれない。
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