第一章

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「お前、一体誰を見てるの?」 セックスの最中に彼が冷めた声で言った。奇しくも前の彼にも言われた言葉だ。    誰を……?  私を見下ろす彼の顔がぼやけて違う男性の顔になる。  保科、先生……。 「その顔! もういい、帰れよ! 二度と来んな!」     私はぼんやりしたまま服を着て、彼の家を出た。  私の惹かれる人は決まって眼鏡の似合う人で、色白で、細身で、そして自信に満ちた人。そんなプライドの高い人が最後にこんな言葉を吐くのだから、きっと私は酷いことをしているんだと思う。同じように前に別れた彼にも。  無意味な恋愛をしていると自分でも思う。私が本当に欲しいのは彼ではないのだから。私がこれまで付き合ってきた二人の男性は、代わりでしかなかった。私の敬愛してやまない「保科先生」の。
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