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保科先生は私の言葉に何も言わず、悲しげに目を伏せただけだった。
ちょうどそのタイミングで頼んだ料理が運ばれてきた。
「貴女にとって聞かれたくないことを聞いてしまいましたね。すみません。……食べましょう」
先生の言葉に私は頷き、スプーンやフォークの入っているボックスからスプーンを取ろうとして、途中で手を引っ込めた。先生の手が伸びてきたからだ。
「どうしました? スプーン、どうぞ?」
先生の手とぶつからなくてよかった。私の醜い心が指から伝わってしまうかもしれないもの。
私は先生の差し出したスプーンを注意深く受け取った。
先生は私の言葉をどう思ったのだろうか。
先生の顔を伺う。先生の目はもういたって普通で、何も汲み取ることができなかった。
「佐倉? 食べないのですか? 冷めますよ?」
「いえ。いただきます」
「いただきます」
先生は器用にクルクルとパスタをフォークに巻きつけ、口に運んだ。綺麗な食べ方だと思った。
向かい合って食べるのはとても緊張することに今さら気が付いた。私は食べ方が汚いと思われないように、小さくスプーンでオムライスの卵を切り取った。
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