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「佐倉」
先生は駐車場に車を停めると、私の方を向いて呼びかけた。
「はい」
「貴女は好きだった人が忘れられないようだが、その人とはうまくいかなかったのでしょう?」
「え、ええ……。まあ、色々な事情で」
目の前にその人がいるのはとても気まずい。私は言葉を濁す。
「それなら、その人のことは忘れなさい。貴女が不幸になります。全く違う新しい人に恋をして、その人をちゃんと愛した方がいい」
先生は私の肩を軽く掴むと酷く真面目にそう言った。
「先生……」
本人から言われるのは、まるで振られたように胸が痛んだ。
「例え似ていても、代わりは代わり。本人じゃない。貴女が虚しくなるだけです。そして相手の男性も傷つく」
そんなの分かってる。
私はスカートの上でキュッと拳を握りしめる。
「分かっています。分かっているけど……!
先生には分からない! 私がどんなにその人を好きか。忘れようとしても忘れられない!それがどんなに苦しいことか!」
私の叫びに保科先生は目を大きく見開いた。
「そんなに……そんなにその人が好きなのですか……?」
「好きです!」
私は目を潤ませて即答した。
先生は黙ってしまった。
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