第ニ章

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「……もう随分私の知らない佐倉が増えましたね」  保科先生はポツリと言った。 「私は佐倉に幸せになってもらいたい。でも、そんな顔をされると、自分が間違ったことを言っているのか不安になります」  そう言った先生は私の知らない顔をしていた。こんな心もとない表情の先生を私は見たことがない。私にとって絶対的な自信に満ちた先生だった先生。その先生が先生ではなく、一人の男性に見えた。  私は衝動に駆られた。  言ってしまいたい。その人は先生、貴方だと言ってしまいたい。  でも、言ったらきっと先生は困る。  そして、今の生徒と先生という関係も変わる。きっと先生はもう会ってくれなくなるだろう。  先生には家庭がある。もう生徒でもなく、先生のことを好きなただの女の私。先生がどちらを取るかなんて決まっている。やっぱり好きになってはいけない人だったんだ。  でも、それでも言ってしまいたい……! この後どうなってしまっても! 「さ……くら……?」  私はシートベルトを外した。そして、先生のネクタイに手をかける。先生と目が合う。先生の揺れる黒目に私だけが映っている。 「さ……」  私の名前を呼ぼうとする保科先生の口を唇で塞いだ。  先生は呆然と私を見つめている。その目を挑むように私は見ながら、ゆっくりと唇を離した。 「分かりませんか? ……私の好きな人は先生、貴方です」  言ってしまった……!   先生はどんな反応をするだろう?!
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