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保科先生はしばらく私を見つめていたが、ふいと目を逸らした。
「佐倉、大人をからかうのはやめなさい」
かすれた声で先生が言った。
流された……と思った。そんなの許せない。私は先生に挑んだのに!
「先生こそ私の告白をなかったことにしないで。私は中二の時からずっと、ずっと先生が好きでした」
「まさか……」
「先生の気を引きたくて必死でした。高校だって、本当はどこでもよかった。でも、先生が喜ぶから決めたんです」
「そんな、そんな理由で……! 一生を左右する出来事ですよ?!」
保科先生はもう一度私を見て、信じられないというような顔をした。
「そんな理由? ですか? 私にとっては大きな理由でしたよ? 行って正解でした。先生が塾生の合格発表のときに来てくれる。他の高校じゃ会えなかっただろうから」
保科先生の瞳が揺れる。
「先生は私の世界の全てでした。あの日、振られた日の夜、皇学館に行ったのも偶然じゃありません。先生に会いたくて。会いたくて。
……でも、先生は先生です。まさかこんな風に手を伸ばせば触れられるなんてことはないと思ってた」
私は先生の頬に指を這わせた。先生はピクリと身体を震わせる。
「さ、くら。やめ、なさい」
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