煙草が似合わない

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煙草が似合わない

 教師に見つかるのは最初から想定内だった。  想定外だったのは、戸口から声をかけてきた相手だった。 「狩野か? こんなところで何してる。もう下校時刻過ぎてるぞ」  杓子定規な言葉には似合わないほど、涼やかで艶のある声だ。  狩野翔平は、口に煙草を咥えたままだらしなく返事をした。 「春宮こそ『こんなところ』で何してんだよ。ここ、社会科準備室だぜ」  地図や年表やプロジェクターなどが置いてある、半ば倉庫のような教室だ。数学教師の春宮が用事があるとは思えない。  春宮は、眼鏡の上の形の良い眉をいかにも几帳面そうに寄せる。 「教師を呼び捨てにしない」  え、そこかよ。と意表を突かれたところへ、被せるように念を押してくる。 「あと、教室内と廊下は禁煙だ」 「……喫煙所なら吸ってもいいわけ」 「そんなわけないだろう。早くそれを消して帰りなさい」  本気で叱責する口ぶりではない。決まりごとだから仕方なく言っている、とでもいうような口調だ。ぞんざいな態度を、狩野は少し意外に思う。     
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