煙草が似合わない

2/19
247人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 そのルックスと紳士的な物腰で、春宮は女子生徒の間で絶大な人気を誇る。毎年バレンタインデーには「江口高校ファン一同」から大量のチョコが贈られるが、お約束のようにすべて丁重にお断りされるらしい。  確かに、生真面目そうな細いフレームの眼鏡の奥の顔立ちは、女だったらさぞかし美人だったろうと想像させる。仕草も口調も穏やかで、声を荒らげたりすることはまったくない。かといって変に生徒に媚びたりすることもなく、きっちりと一線を引いて崩さないところがある。  ふと、この取り澄ました顔が本気で怒るところを見たくなった。 「何、今すぐ消したら見逃してくれんの?」  狩野は煙草を手に持つと、一歩前に踏み出して春宮の顔を挑発的に見下ろす。  入学時から二十センチ近く背が伸びて、もうじき百八十センチに届く。それに対して春宮はほっそりとした体型で、身長も狩野より五センチは低そうだ。特に背中から腰にかけての線が男性にしては華奢で、このまま簡単に壁際に押さえつけてしまえそうだな、などと妙なことを連想してしまう。  しかし、春宮は自分より一回りも体格のいい狩野の威嚇に怯みもしない。 「見逃してほしいのか?」  細い顎をつんと上げて、露骨につまらなそうに言われた。 「ふん。処分したきゃ、しろよ」  煙草を口に戻して大きく吸うと、ふーっ、と煙を相手の顔に吐きかける。春宮は咳き込みこそしなかったが、形のいい眉を露骨にしかめた。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!