煙草が似合わない

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 訝しげな梶に対して、春宮は普段の物柔らかでスマートな態度で芝居を押し通す。 「担任相手だと逆に言いづらいことだってあるでしょう」  梶はわざとらしく顎に手を当てる。 「ふーん、そうか。ま、春宮先生がそう言うなら、今回は特別に大目に見るか」  狩野は梶の、この押し付けがましい兄貴面が嫌いだ。面倒見のいいふりをして、暗に主導権を握っているのは自分だと言われているような気がしてならない。 「あ、あと春宮先生、生徒の前での喫煙は控えましょうね」  梶は春宮の指先の煙草に目をやってそんなことを言う。 「ああすみません。ついうっかり」  春宮はあくまでにこやかに受け流す。何か言いたそうにしていた梶だったが、狩野と春宮の顔を交互に見比べると、それ以上は何も言わずに立ち去った。 「……なんだよ、今のは。かばったつもりか」  低い声で問い詰めると、春宮が狩野の方を向き直った。眼鏡の奥のその顔は、さっき梶に見せた笑顔とは対照的に、冷たく無表情だ。それがなぜか狩野を苛立たせる。 「話のわかる教師ですアピールか? そんなお堅い眼鏡かけて、白々しいっての。真面目キャラに似合わねーぜ、『ハルミン』」  わざわざ、女子がアイドル扱いして呼ぶときの綽名を使ってやった。     
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