煙草が似合わない

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「どうせ煙草だって普段吸わねーんだろ? バレバレだよ。無理すんなって」  傍らにあったパイプ椅子にどっかりと腰を下ろし、春宮の目の前で、椅子の背にかけていたブレザーのポケットから煙草とライターを引っ張り出した。 「真面目キャラ? は、誰のことだよ」  春宮の声が、急に嘲笑うような響きを帯びた。 「え」  意表を突かれて、狩野は傍らに立つ春宮の顔を見上げてしまった。 「眼鏡をかけてるのが真面目だと思う? だから煙草も吸わないって?」  春宮は自分のこめかみに手をやると、眼鏡の細い弦を握り、勢いよく顔から剥ぎ取った。長めの前髪が額の上で揺れる。ワックスなどのスタイリング剤で固めていない、さらさらの黒髪だ。 「じゃあ、これでいい?」  きらりと光る眼に直に顔を覗かれて、狩野の心臓がびくっと跳ねた。  細めだが凛々しい線を描く眉の下からこちらを見下ろしてくる目は、眼鏡をかけているときの印象よりもいくらか大きい。黒々とした瞳が蛍光灯の光に濡れたような反射を返す。その上で、びっくりするほど長い睫毛が羽ばたくように二、三度上下する。 (なんだこれ……やばい)  目を逸らせたいのに、逸らせない。     
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