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春宮が、まるで見せつけるみたいに煙草を自分の口に運んだ。さっきまで狩野が咥えていた吸い口に、春宮の形のいい唇が触れる。上下にわずかに割れた隙間に先端を含んだと思うと、少しだけ尖らせてついばむような形を作る。
男のくせに艶やかでうっすらと桜色のそれは、触れたらきっと柔らかい。
春宮は長い睫毛を伏せて息を吸い込むと、ぴんと反らせた人差し指の先で狩野の顎を撫で上げた。指一本で顔を上向かせられてしまう。そこに、ふぅっ、と煙を吹きかけられる。
同じ煙草なのに、自分で吸って吐く煙とまるで違う匂いがする。
「似合わないのはお前の方だよ、この童貞」
「なっ」
春宮は、高い鼻の先から冷たい視線を狩野に向ける。その視線に煽られて、つい、しなくてもいい反応を返してしまった。
「童貞じゃなくなれば、吸っていいのかよ」
ぷっ、と春宮が吹き出した。
「ばーか。お前、自分で認めてやんの」
あ、と口が半開きになる。間抜けな返し方をしたことを後悔するよりも先に、笑みに崩れた春宮の顔に見惚れてしまった。
春宮がまた、一口煙草を吸う。指に挟まれた煙草の先から煙がたなびく。
袖口までボタンをきちんと留めたシャツから覗く手首が、誘いかけるみたいに細い。片手でまとめて握ってしまえそうだ。
「童貞、捨てさせてやろうか」
桜色の柔らかそうな唇を、春宮が自分の舌でぺろりと舐める。自分と同じ煙を吸い込んだそこは、どんな味がするんだろう。
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