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1 魔女と私
私と養い親であるジェスリルが住む家は、古くて新しい、小さくて広い不思議な館である。何故ならジェスリルは魔女だから。
彼女の年齢は三百歳を優に超えているらしい。
しかし外見は若く美しい妖艶な女性である。
艶のある黒髪は膝のあたりまで伸び、ゆるく波打っている。
何でも見通す神秘の瞳は見るたびに様々な色に変わる。
聡明で、落ち着いた声音は誰もを虜にしてしまう。
私の拙い言葉では到底言い表すことなど出来ないが、ジェスリル以上に美しい存在などこの世には存在しないと思う。
私たちはある時は森の中に、ある時は街の中に、またある時は崖の上に住んでいる。
というのは、この家には色々な場所に繋がる扉があるから。
ある扉は街の薬屋の奥に、ある扉は山小屋に、ある扉は崖の下の洞穴にといった具合に。
十数年の間、私たちはこの館で穏やかな暮らしを楽しんでいた。
訪れる客は吸血鬼、人狼、妖精。人間は勿論、動物たちも皆、美しいジェスリルに逢うため、また、困り事の相談など、ジェスリルを頼りにして訪れる。たまに私にお土産をくれて可愛がってくれる者もいる。
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