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一瀬さんの車に俺たちは乗り込んだ。
一瀬さんは大学生だけあって雰囲気も大人だったけど、面白い人だった。
ついでに言うと、これまたカッコよかった(この世界では俺以外はみんなイケメンなんだろう。頭が狂いそうだ)。
「千夏くん、浮き輪持って来たの? いいなぁ!」
春先輩が俺の浮き輪(すでに、楓が膨らませた)を見て、本当に羨ましそうに目を輝かせた。
「春はゴムボート持ってきただろ?」
和泉先輩が呆れたように笑う。
「ううん……でも、この向日葵の浮き輪、良くない?」
「こんなもの、いつでも貸してあげますよ……」
俺はため息交じりに言った。
この浮き輪だって、どう考えても春先輩に使ってもらったほうが嬉しいだろうよ。
「え、じゃあ、どうやって千夏は海に入んだよ?」
楓が慌てたように言う。
余計なこととはこのことだ。
「それはだな、足を踏み出して一歩ずつ水の中に――」
「もしかして千夏ちゃん、泳げないの?」
冬川先輩が俺のガチレスを遮って、核心を突く。
「えぇ、そうなんですよ! 俺もよく分からないんですけどね! 金槌って言うんでしたっけ、あれ、トンカチでしたっけ?」
「どっちにしろ、意味は同じだけど」
雨宮先輩がぼそりと呟く。
「あ、じゃあ、俺、教えてあげよっか?」
「いえ、結構です」
俺は和泉先輩からの心優しい気遣いを丁重にお断りした。
本当に帰りたい。
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