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「大丈夫か?」
声をかけられた。
雨宮先輩が俺の隣に座る。
「良かったな。生きてて」
「……すみません。俺が勝手にどっか行ったから」
「いや、波崎がつまらなさそうだとは思ってたけど、何も言わなかった俺らも悪かった」
「そんな……先輩が気遣うことじゃないです。あんなの俺のわがままです」
「夏霧はずっと、お前のこと見てたけどな」
一瞬、体が痺れた。え、何、今の。
「だから、波崎が溺れたのがすぐ分かって、凄い速さで泳いで行った。あいつ、競争のときもあんなに速くなかったくせに」
「そう……ですか」
「大切なんだな。波崎のこと」
今度こそ、ドキッとした。タイムリーすぎる。
「いや、まぁ……溺れてる人がいたら誰でも助けますよね」
俺は内心ドギマギしながら言った。
「でも、実際、夏霧以外は気付かなかった。あいつ、波崎が浜辺に上がってからもお前のこと確認してる。ほら」
顔を上げる。
楓がこちらを見ているのが分かった。
俺たちがこっちを向いたので、慌てて顔を逸らしていた。
「愛されてるよな」
「あ、あああ愛?」
「別に変な意味じゃない」
雨宮先輩がクスっと笑う。
無表情の時が多い雨宮先輩の笑顔は綺麗でかっこよかった。
「俺にとってもそういう奴がいるから」
「和泉先輩ですか? それとも春先輩? 冬川先輩ではなさそう……」
「いや」
雨宮先輩が首を振る。
「Treeのボーカル」
「は?」
雨宮先輩はすっと立ち上がると、また海に戻って行った。
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