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一瞬脳裏に能天気な笑顔が浮かんだ。夏が来るたびに着ている青色のズボンを汚しながらこちらを振り返っている。
眩しいくらいの彩光で陰になっているというのに、それでも彼が笑っていると分かっていた。だって彼はいつも笑顔で私の名前を呼ぶのだ。
私とダニーは一種の家族、のようなものだった。
ダニーは私が所属するよりも半年ほど前に傭兵団に来たばかりの新人だった。
盗賊により村を焼かれてしまった私と同じで、彼もまた故郷を賊に滅茶苦茶にされて流れるようにこの傭兵団へと入ることになった。
国を持たず、人を選ばず、をモットーにしていたこの家族たちは、私とダニーのように帰る場所を無くしてなし崩し的に所属した人も合わせて全部で20人ほどの小さな傭兵団だった。
私とダニーは所属した時期が近いことも相まって昔からの幼馴染のように過ごしてきた。お互いに悩みや愚痴を言い合ったこともある。恋の相談をしたこともある。ふたりでコッソリ武器の特訓をして大怪我をして怒られたこともある。
私達は本当の姉弟、あるいは幼馴染のようだった。
だから、忘れていたのかもしれない、気づかないようにしていたのかもしれない。
一つ前の港でダニーは船を降りた。
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