晴ノ日への標

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 巻き上がる砂塵に、涙が滲んで視界が揺れる。白く薄れゆく月が、朝陽を受けて消えようとしていた。  ふわりと風が砂を浚い、ふと視界が眩しく開けた。  遠いのか近いのか、生命力に満ちたオアシスが目に飛び込んでくる。 「あれを越えれば・・・」  黒髪の少年は途中で言葉を止めた。口の中も砂まみれで、慣れてはいるが不愉快だった。  少年の言葉を受けて、隣を走るもう一人の少年が小さく頷いてから、前方に注意を促した。オアシスの手前、地平線を埋め尽くさんばかりの黒い影が(うごめ)いている。 「死ぬなよ、セイ」 「うん、カイもね。絶対に生きて帰らなきゃ」  互いに目配せをして肯くと、キッと前を見据え、馬の腹を蹴って速度を上げた。  すらりと抜いた刃が、真っ白い朝日を受けて眩むほどに輝いていた。
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